「うちの商品って、競合と比べても特筆すべき強さを作りにくいんですよ。
結果、価格競争になり、売り上げが増えても、なかなか利益が伸びない。
何とか、人件費を減らす人事的な施策はないですかね?」
とあるBtoCビジネスの経営者からのコメントです。
せっかくの売上増も、利益増につながらない歯がゆさから、
コスト削減の可能性を探る中で、人件費に着目されたとのこと。
「社員の生産性を上げるために、どんなことに取り組まれましたか?」
「残業の削減は結構やりましたよ。働き方改革ってやつですね。」
たしかに、社員の生産性に疑問を感じている部分もあるとなると、
人件費圧縮は自然な期待かもしれませんが、問題の本質は本当にそこでしょうか?
競合との差を生む組織の能力、実行力
商品力が無いわけではないが、他社も類似する商品を提供している中で、
どうやって他社と差別化するか、とても重要な経営課題です。
商品スペックを1%でも上げる、コストを1円でも下げる、納期を半日でも早くする、
お客様に選んでいただけるよう、様々な努力を社員に求めることでしょう。
しかし、「努力/結果を求める」だけで、本当に期待した成果が出ていますか?
特に、社内に「とりあえずやっとくか」ムードや、場合によっては「やったふり」
が散見され始めると、組織の赤信号が点滅し、成果の持続性も危うくなります。
何が問題なのでしょうか?
会社として「目指す姿」を、平凡な社員と共有できているか?
社員に指示を出すことは簡単です。
経営者であれば、ほとんどの指示は、的を得たものでしょう。
しかし、その指示を実行するのは、経営者ではなく社員たちです。
そして、大多数の平凡な社員たちは、経営者のような高い視点に基づく、
市場/競合環境や、商品の魅力と課題、オペレーション上の強み、
といったことは見えてなく、本心では関心さえもありません。
そのギャップを埋めないと、経営者の指示は単なる「めんどくさい命令」となり、
「まぁこの程度やっとけば文句は言われないだろう」
というレベルを目指す努力にすり替わってしまいます。
これで、本当に組織として期待する成果レベルに達するでしょうか?
全員のベクトルが揃う組織の文化が、事業を効率化する
人間、言われるだけでは、なかなかその通りにはやらないのが自然です。
これは、どんな大企業でも、多くの場合に当てはまります。
なぜなら、社員も人間なので、動機が持てないことには、
大して努力をせずに、「そこそこ」で終わらせます。
動機を持つためには、まずは「なぜ」という目的意識を共通言語にできるか。
そして、その目的を目指している人が明確に報われて、大切にされる仕組みが、
会社のさまざまな機能の中に一貫性をもって揃っているか。
結果として、「正直者がバカを見る」仕組みや組織文化になっていないか。
まずはこういった、基本的な土台の整備が不可欠です。
これが、一過性ではない、組織能力のインフラとして機能します。
事業戦略や個別の指示が正しくても、肝心の組織能力、高い品質での実行力
が伴わない限り、すばらしい戦略も「絵に描いた餅」です。
古くから経営学者の間では「戦略が先か、組織が先か」という議論がありませんが、
そういった対比論よりもっと単純に、「戦略と組織に一貫性を持たせる」ことが、
現実的な解であり、それこそが、経営者としての腕の見せ所ではないでしょうか。
卓越した商品・サービスは、組織の文化から生まれる
組織能力が高まってくると、社員が会社の目的を意識して仕事をするようになり、
「もっとこうしたらいいんじゃないか?」という問題意識を持ったり、
提案したり、改善したり、という好循環も生まれてきます。
こういった好循環の源泉は、平凡な社員でも、会社の「ありたい姿」を意識して、
そこに向かうための努力をするモチベーションが持てたことにあります。
最低限の「お仕事」を70%の力でやっていた社員が、
80%、90%、100%、110%?の力を発揮できるようになると、
組織としての戦力と生産性は、飛躍的に向上します。
冒頭の「残業の削減は結構やりましたよ」というアプローチとは、
似て非なるものです。
これは、社員がひとり単独で行うことではなく、
経営者から社員同士へ、組織内での相互作用を起こしたことによる成果であり、
「個人の資質」ではなく、「組織能力の向上」による成果と言えます。
経営者がいちいち、箸の上げ下ろしまで指示命令していた状況から、
組織能力が大きく進化し、既存の商品の仕様や、サービスの提供レベル自体が
向上していくことも、夢ではありません。
事業戦略を加速するための組織戦略の重要性
優秀な経営者が商売の枠組みを考えて、整えても、
実行する組織の能力を向上させる「戦略」と「方策」がないと、
せっかくの事業戦略も、花開く機会が限られてしまいます。
事業戦略を加速するための組織戦略の重要性に気付いた会社は、
似たようなビジネスモデルであっても、競合各社から一歩抜きん出る道筋ができます。
あなたの会社では、事業戦略を加速するための組織戦略を実行してますか?
文責:蛯原 淳(えびはら じゅん)

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